「ドアを開けても、Mumford & Sonsやアコースティック・ギター、そして皆が美しいハーモニーで“全ては素晴らしいよ”と語っている姿を見ることはできない。ここはまるで、ホラー映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』のようだ」
キングスレー(ザ・チャップマン・ファミリーのフロントマン)はイギリスのRedcarで暮らしている。ここは、地方議会が、当惑から、町の中心で営業を止めてしまった店のウインドウを隠すために、板に偽の店の絵を書き始めたことによって全国紙にもとり上げられた所だ。
「今は本当の店より、ヴァーチャルな店のほうが多いんだ」とキングスレーは語る。
そう、この町こそが今の英国そのものである。どうしようもなくなった時に“万事OKだよ”と装っているのだ。
「僕は、人々が怒りを露にし、再び何かを信じてほしいんだ」
2006年バンド結成。メンバーは、キングスレー(V, G)、ポール(G)、フィル(D)、ポップ(B)の4人。Sex PistolsのダイナミックさやThe Fallの強烈さ、そしてShellacの不協和音でずぶ濡れになったパンクサウンドをベースに、フィードバックの嵐を一丸となって彼らは作り出す。彼らは故郷を誇りに思っているが、同時にその故郷に対し、子供が愛すべき親に感じる不満のようなものも持っている。それは緊張感がある愛情のようなもので、ポップが自分のやるべきことを見つけるために、町でエアライフルを発射するのを見た人もいる。
「隣近所のヤツらは、朝の9時からベランダに座って缶ビールを飲んでるんだ。あそこはイギリスの中の忘れ去られた場所なんだ。人々は閉鎖的なんだよ。あの場所では、野心は必ずしも良いものとは見なされない。全ての人々が、労働者階級、あるいはそれ以下でいることに心から誇りを持ってるんだ。それ以上のものを求める人間は、変人扱いさ」とキングスレーは語る。
彼らのストーリーは、元美術学生で、20代を将来性のない仕事をしながら暮らしていたキングスレーが、長年ダラダラとやっていたバンドを本格的に始めようと決意したことから始まる。それはThe Libertinesによって始められた時代の終わり頃で、彼らは、何の表情もない模倣者たちと共に盛り上がっていたローカル・シーンに自分達の居場所を見つけた。
「ニューカッスル出身のバンドは皆、コックニー・アクセントで歌っているだ。ポークパイハットをかぶって。みんなリヴァティーンズになろうとしているんだよ」とキングスレーは語る。
The Futureheadsの虜であったキングスレーとポールのバンドとしての初の試みは、ストップ/スタート形式の尖った音楽を作る事であり、それは彼らが、自身をポップと呼ぶ華やかなローカル・プロモーターの注意を引くまで続いた。人生で一度もベースを手に取った事がないという事実が邪魔することもなく、ポップはバンドに入ることを宣言したのだ。
「いまだに演奏できないんだ。明確なコードは把握してるし、ノイズだってわかってる。けど、バンドや音楽ってものは、楽器を上手にプレイできる人々だけのものだと制限されるべきではないんだ」とポップは語る。
キングスレーは、彼らのバンド名の由来が、ジョン・レノンの生涯の侮蔑であるマーク・チャップマンであることを認めている。その後、インターネット上で死の脅迫を受けたことにより、彼はこのことを後悔し始めている。またマイスペースに、「チャップマン・ファミリーはカルトじゃない」というスローガンを載せたこともある出来事を引き起こした。グラストンベリーでのショーの最中、まさにそのスローガンが書かれた手作りのTシャツを着たファンの行列ができ、更に、それを見た多くの人々が同じ事をやり出したのだ。彼らは別の意味で「カルト」になった。そんなことは全く予期していなかったのに。もしそれが、ダーク・ファッションを大いに物語り、このバンドがイギリスの若者のイマジネーションを捕えたということになるのであれば、自分達のバンドがジョークと見なされ、そういった響きを背負うことになるのではないかとキングスレーは心配している。
2007年8月にバンドはファースト・シングル『You Are Not Me/You Think You're Funny』をリリースし、2008年にはグラストンベリー・フェステイヴァルでもプレイ。同年のミュージック・コファレンス、Manchester In The Cityでは、フラテリスとともに、クロージング・バンドに選ばれている。辛辣で、何かが突撃してくるかのようなザ・チャップマン・ファミリーのライヴを見た事がある人は、彼らがロックンロールが持つ高揚感に溢れたスリルに背を向けているわけではない、ということがわかるだろう。彼らはむしろ自身を台風の目の下に位置づけているのだ。オープニングのワンツーパンチから後半まで、その勢いは衰えない。バンドは2008年12月、プロデューサーのDan Swift(The Futureheads、Art Brut、Untitled Musical Project)とセカンド・シングルを制作。この時にレコーディングされた「Kids」はバンドにとって特別な曲で、フィードバックに溢れたライヴでも人気の曲だ。彼らはこの曲の中で、自分達の世代も見つめつつ、新しい世代を非難する人々を横目で見ているのだ。
「大言壮語のひとつさ。それは、奮闘をやめてしまった人々や、ただ座ってXboxをやったりオンラインでチャットすることだけを望み、立ち上がろうとしない人々に対してインディー・キッズが持っている不平みたいなものかな。ある人が、第三者の観点から見て、現代の若者に対して愚痴ってるんだ。気難しい年寄りたちが語ってる番組の音楽ヴァージョンみたいなもんさ」とキングスレーは語る。
「“Kids”は俺たちにとっての“Anarchy In The UK”みたいなもんなんだ。皮肉を込めた観点から見た“Anarchy In The UK”へのアンセムさ。キングスレーは、そういった無関心な奴らをからかってるんだ。サッカー選手と結婚する事だけを望んでる女の子達や、理由もなく金持ちになりたがってる人々をね」とポップは言う。
2009年の4月にシングル『Kids』はリリースされ、大きな成功を収める。 Zane Lowe、Huw Stephens、そしてSteve LamacqなどのBBC Radio Oneのショーでのレギュラー・エアプレイを獲得し、NMEとXFMではシングル・オブ・ザ・ウィークに選ばれた。MTVではビデオが繰り返し放送され、MTV2のMySpaceチャートにおいても、3週連続トップに残った。またNMEのRaderツアーにも参加し、これはバンドのUKでの人気を決定づけた。また、ベルギーのPukkelpopやイギリスのレディング・フェスティバルへの出演も決まった。続くサード・シングルの『Virgins』は、同年の夏にレコーディングされ、9月にリリースされた。リリース後、バンドは初のヘッドラインでのUKツアーもおこなった。2010年に入ると、1月にはミニアルバム『キッズ』を日本でリリース。3月には、テキサスのサウス・バイ・サウス・ウェストのNMEショーケースにEverything Everything やThe Drums とともにプレイ。4月にはBRITISH ANTHEMS(新木場スタジオコースト)出演の為に初来日、と活動の幅を広げて行く。しかし、この頃からバンドは表舞台から姿を消すこととなる。
「僕らはNMEのRaderツアーから三ヵ月後にアルバムをリリースすることは出来たんだ。それはそれで良かったんだけど、どんなものを僕らが提示するのが最も良いのかを確認したかったんだ。適当にレコーディングしてアルバムをつくりたくはなかったんだ」とキングスレーは語る。
デイジョブを続けながら、ロンドンへ移ることを拒否し、既に書き上げていた多くの曲を破棄。彼らは新しい曲を書き始めた。
彼らのデビュー・アルバムのタイトル『バーン・ユア・タウン』は、こうした彼らのあり方に非常にフィットしたタイトルだ。Future Of The Leftのプロデューサー、Richard Jacksonとレコーディングされたこのアルバムは、ザ・チャップマン・ファミリーの幅を大きく広げた。『バーン・ユア・タウン』は曲単位ではなく、アルバム単位で聴ける作品だ。
「大きなベースとドラムの音をとても気に入っているんだ。怒りのノイズとスマッシーなギターに満ちた10曲が出来た。それと、3Dスタイルのシネマスコープのようなアルバムを作りたかったんだよ。『ペット・サウンズ』のオルタナティヴ・ヴァージョンのような作品を。Marilyn Manson、Nine Inch Nails、The Strokesといった僕らが好きだったバンドのアルバムのようにしたかったんだ。アルバムから幾つかの曲をiPodに移すことを拒否するような、いわゆるオールド・スクールの本当のアルバムをつくりたかったんだよ」とキングスレーは語る。
暗い調和とアンビエントな恐怖を感じさせる「A Certain Degree」から、パンクキッズを失望させないリード・オフ・シングル「All Fall」へとアルバムは始まる。このアルバムに多くの人は驚くであろう。まるでThe Cureのワイドスクリーンの地獄にJoy Divisionの影が出てきているようだ。ウイットなラヴ・ソング「Sound of the Radio」、グルーミーな「1000 Lies」、そして3分のノイズ・セクションを持つ、第2次世界大戦で子供たちを殺害することについて歌った「A Million Dollars」とアルバムは続く。センセーショナルな初期のシングル「Kids」は、新たにレコーディングされ、以前よりもテンポが速くなり見事なヴァージョンとなった。そしてポップな「Anxiety」・・・・・・。このアルバムは、The Horrorsの『Primary Colours』とThe Cureの『Pornography』の中間にある肥沃な黒土のようだ。ザ・チャップマン・ファミリーは人々にカタルシスの出口を提供するために存在しているのだ。
2010年10月、バンドは4枚目のシングル『All Fall』をリリース。この曲は、英『Artrocker』誌の2010年のシングル・オブ・ザ・イヤーを獲得した。2011年の1月にはアルバムから5枚目のシングル「Anxiety」がリリースされ、3月にはアルバム『バーン・ユア・タウン』がついにリリースされる。